青梅・立川・八王子は田舎か? 数値で見る「東京の田舎」とは?

都心から山間部まで、意外と広い東京都。
どこから田舎か、どこまで都会か。ちょっと気になります。
山に近い青梅や八王子は、果たして田舎なのか?
各種データをふまえ、考察します。

都会と田舎の境目は? 意外な、東京・田舎事情

青梅は都会なのか、それとも田舎なのか?

青梅市街と、奥多摩・大岳山
青梅の街と山

筆者は、東京都・青梅市在住。
地図でみると、東京の西外れの町です。地元民はこう言います。

「青梅って、ホント田舎ですよ」

東京都・青梅市の位置

もっとも、他人から、青梅を田舎扱いされると面白くない。
筆者は移住組で、郷土愛も弱めですが… 面と向かって田舎扱いされたら、やっぱりムッとします。ましてや、生まれも育ちも青梅ならば、反論するでしょう。

「いや、店も病院も揃っているし、スタバもあるし、なにより歴史があるし」
「新宿だって電車1本、結構、便利なんですよ」


スタバがあるから都会、かはさておき、一理あるかも?
たま〜に、埼玉県だと勘違いされると…

青梅市・成木の桜並木
青梅・埼玉との都県境の光景

「あのさ、青梅って東京で5番目に誕生した、由緒正しい市なんですよっ。調布や町田より早いんだから」

などと糺し(ただし)ます。いや、別に埼玉がキライなのではなく、間違えられるのがイヤなんです。
「町田が神奈川県」ほど間違えられませんが…
土地勘がなければ、間違うのも致し方ない、気もします。関東の人が、鳥取と島根がゴッチャになるのと一緒?

青梅市・多摩川沿いのカフェ
青梅・多摩川沿いのカフェ

思うに、青梅の人にとって「田舎であること」は無問題なのです。御岳の山、多摩川の清流… 豊かな自然は、むしろ自慢だったりします。
でも「田舎モン」扱いされるのがイヤなのかと。

仕事や大学など、都区内の通う人も多く、生活水準も都心とさして変わらない。市街地に住む限り、閉鎖的なムラ社会ではありません。多摩地方らしく、自治体の財政も比較的健全です。
純然たる「田舎」とも、ちょっと違うのですよね。

それはさておき、広い東京、どこからが田舎で、都会なのか… 立川は、八王子・町田は田舎なのか、それとも都会なのか、考察します。

田舎の境目線は、国道16号?

都心を中心に、同心円状に発展する東京。
環状道路が、都会と田舎の境目だとする人もいます。

「環八より西が、田舎なんじゃないかな」
「国道16線より外は、田舎」
といった区別です。

上の地図では、右のラインが環状8号線(環八)、左が国道16号線(東京環状)です。

「環八より西は田舎」は、山の手線・内側にでも住んでいる方の意見でしょうか?
これだと、吉祥寺や二子玉川、成城学園も田舎、となります。
戦前ならいざ知らず、さすがにこれはないかなと。

国道16号線・福生付近
国道16号(福生)

「国道16号線より外」は、中々良いところを突いています。
東京都内ならば八王子中心部や福生より西、神奈川は相模原や座間付近です。埼玉ならば川越から北、となります。
同心円状で、皇居から30〜40km程度の国道16号線。鉄道ならばおおよそ、1時間程度です。多摩付近の沿線は、関東平野の端っこ、結構のどかな光景も目にします。
感覚的には「国道16号線より外は田舎」は、納得度が高そうです。

統計で比べる、東京と日本の田舎とは?

青梅市郊外

「田舎」の定義は人それぞれ。生まれも育ちも違い、価値観も千差万別です。
そこで、全国平均と比べ、「東京の田舎」はどの程度なのか、各種統計で比べてみましょう。

人口密度で比べる

なんといっても、人口が少ないのが「田舎」の特徴。
まずは人口密度を比べましょう。

グラフは、1k㎡あたりの人口。数字が大きいほど、たくさんの人が住む「都市」。
いくつかの区市をピックアップ。西多摩郡は、奥多摩町など3町1村の数値です。
都心から離れるほどに、順当に人口密度が低くなります。

日本と東京自治体の人口密度グラフ
人口密度(2022年
国土地理協会Webサイトよりデータ引用し、グラフ作成

青梅の人口密度は文京区の6%ほど。のどかなのも頷けます。
人口密度を見る限り、八王子は微妙で、青梅は田舎ですかね…
とはいえ、全国平均の3.7倍ほど高い結果です。「東京では田舎」ですが、全国的にみれば田舎ではない?

実際、青梅程度の田舎だと、飲食店やスーパーなどは、それなりに充実。図書館など、公共施設は過不足ありません。ただし、都心に比べ、夜遅くまで開くお店などは少ないです。基本、早寝早起きなのかも。

奥多摩町など西多摩郡は、全国平均より人口密度が低いです。広大な山地が主因ですが、過疎化の影響も大きいのでしょう。田舎どころか、近い将来、限界集落の発生も否めません。

1世帯別あたりの、自動車所有率は?

東京自治体の、世帯自動車所有率・グラフ
1世帯あたりの自動車所有率(2017年)
東京都統計年鑑よりデータ参照し、グラフ作成

「田舎」といえば、車社会。公共交通の乏しいエリアでは、自家用車が必須です。
東京都の統計をもとに、自家用車(登録車)と軽自動車を合計し、算出しました。

やはり、都心は所有率が低いですね。
文京区の月極駐車場は、3〜4万円が主流。青梅なら、ワンルームマンションが借りられる価格。維持費も高い車は、どうしても敬遠されます。

杉並区では、車の所有率は3割強。文京区より少し増えます。
練馬区より武蔵野市の方が低く、区部でもチョッピリ「田舎」なエリアがある模様。
立川、八王子と郊外へ行くほど、自家用車の所有率が増えます。

青梅は1家に1台以上。
西多摩郡では1.4台、完全に車依存の社会です。
全国平均は、他のデータソースで計算すると126%程度。自家用車保有率は、貨物車をどの程度加味するかで、結果が変わるため参考値ですが、西多摩郡は全国的に見ても車社会ですね。

ちなみに青梅在住の筆者は、自家用車を持っていません。駅チカの市街地に住むならば、まったく問題なしです。
同じ自治体内でも、エリアによって交通事情が全然違います。移住をお考えの方は、その点を踏まえると良いでしょう。

田舎でも、医療は意外と充実?

「田舎」は、医療機関が少ないイメージ。イザという時、適切な治療が受けれない可能性もあります。

日本と東京自治体の、人口1万人あたりの、医療従事者数・グラフ
人口1万人あたりの医療従事者数(2016年)
厚生労働省のデータを参照し、グラフ作成

上のグラフは、人口1万人あたりの医療従事者数。ざっくり言うと、病院や診療所に勤める人数です。
文京区が突出して多いですが… 東大、順天堂、日本医科歯科大などの大学病院が多いから。
濃いブルーの棒グラフは、大学病院を除いた数値です。地域医療の充実度を測るならば、こちらのほうが良いかもしれません。

文京区は別格として… 武蔵野、立川が充実、ついで青梅が良いですね。意外ですが、杉並、練馬、八王子は、全国平均より低い結果です。
深刻なのは西多摩郡。全国平均の三分の一程度です。過疎の医療の現実でしょうか。

データを見る限り、郊外でも良いエリアがあります。都会・田舎というよりも、個々の自治体での違いが大きいようですね。
田舎だから医療が手薄い、と短縮的に考えないほうが良いでしょう。

都心までの所要時間で比べる、田舎度

東京自治体の、都心までの所要時間・グラフ
都心までの所要時間

都心までの所要時間を比較します。
役所・役場の最寄り駅から、鉄道利用で都心の駅への所要時間です。
(東京駅および新宿駅への所要時間の、平日・日中平均値)

毎日、通勤・通学するならば、立川あたりくらいまでが良さそうですが…
始発駅の高尾(八王子)や、青梅線・小作駅より西ならば、通勤時間帯でもほぼ座れ、意外と悪くありません。
むしろ、帰りに座れないのがネックですね。

都心よりの杉並が、武蔵野より所要時間がかかるのは、区役所の最寄り駅が南阿佐ヶ谷のため。同じ区内でも荻窪ならば、もっと便利です。
同じ区内でも、結構所要時間が違います。
奥多摩町は2時間弱と、やはり遠いです。新幹線の東京〜名古屋間より時間がかかり、中々ツラいものがあります。

最近はグリーン車など、ユッタリ通勤できるサービスも整いつつあります。
中央線・青梅線でも2025年をめどに、グリーン車が導入。通勤スタイルも多様化しますね。

都心までの乗車時間が40分を超えると、田舎度が高くなる感じでしょうか。
もっとも、武蔵野あたりで駅まで徒歩20分ならば、八王子市内の駅前と、通勤時間はさほど変わりません。総合的に判断すると良いでしょう。

持ち家率の高い地域は?

日本と東京自治体の、持ち家率・グラフ
自宅の持ち家率(2018年)
総務省統計局データを引用し、グラフ化

自宅が持ち家かどうか、地域差があります。
先祖代々の地縁が大きい地域は、持ち家率が高いでしょう。
持ち家は、引っ越しもハードルも高く、長期間同じ場所に住む、と推定されます。

東京区部や、その近郊の武蔵野は40%前後と少なめ。
独身者の通勤・通学に便利な立地で、独身者が多いのも一因でしょう。
立川、八王子、青梅と郊外となるにつれ、持ち家率は上昇。
全国平均と同じくらいの八王子からが「田舎」でしょうか。

青梅では7割が持ち家です。
持ち家率トップの都道府県は、76.8%の富山県。堅実な気風の富山と青梅は、意外と近しいメンタルなのかも?
郊外の持ち家率が高いのは、住宅の価格が安いのも大きいでしょう。青梅ならば、3千万円を切る建売住宅も結構あります。住居費を抑えたいならば、「田舎」も良い選択です。

坂道が多いのは、田舎か?

人口が密集する平野。というよりも、大規模な都市は、平野でないと造りにくいのでしょう。
巨大な関東平野に、江戸幕府を据えた徳川家康は、まさに慧眼と言えます。

「平均傾斜」は平坦度を示す指標。土地がどの程度傾斜しているかを数値化します。

東京大学空間情報科学研究センターでは、全国自治体の平均傾斜を解析。山間部を入れず、居住地のみをピックアップした平均傾斜です。

日本と東京自治体の、居住地の平均傾斜・グラフ
居住地の平均傾斜
東京大学空間情報科学研究センターよりデータ引用し、グラフ化

山手線の真ん中ですが、平均傾斜の大きい文京区。谷と台地が入り組んだ地形です。
森鷗外の「鼠坂」、江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」(団子坂)など、文学作品にも登場する坂道も数多くあります。都心でも、高齢者にキツい街もあります。

比較的平坦なのは、武蔵野台地の杉並、練馬、武蔵野、立川。確かに平らな場所が多く、住みやすいでしょう。
八王子、青梅は、グンと傾斜が大きくなります。川の急峻となり、山も近い地形。
自然が豊かともいえますが、坂道も多く高齢者はツラいかも。

もっとも、八王子・青梅ともに、エリアによっては平地も多いです。
少し足を伸ばせば、山や川もあり自然を満喫、しかも暮らしやすい場所です。
土砂災害の危険性を考えると、「山や川から、程よく近い平地」が理想的でしょう。

このデータを見ると、「国道16号線・田舎境界説」は説得力がありますね。
地形的には、内側の立川と、外側の八王子の違いが顕著です。

その他、自治体の健全性も「田舎度」の指標と思われますが…

上の記事で、詳しく説明しましたが…
東京都内では、概して区部よりも多摩地方のほうが、財政が豊かです。よって、「田舎度」の目安にはなりません。

東京の田舎とは?

青梅からの日の出

各種データを見ましたが…
筆者の経験もふまえ、「東京の田舎」と「田舎」の違いを考察します。

  • 都心から、鉄道で1時間程度の郊外は、全国的にみれば人口密度はほどほど高く、ショッピングや飲食店、公共施設などはそれなりに充実。
  • 医療など公共福祉は、自治体により様々。都区内より田舎が充実することも。相対的に財政の豊かな「東京の田舎」は、医療に関しては安心。ただし、過疎地は要注意。
  • 郊外へ行くほど、車と持ち家の所有率は高い。その点では「東京の田舎」と「地方の田舎」のライフスタイルは近しい。
  • とはいえ、駅から近いエリアは、郊外の都市とさして変わらないライフスタイル。
  • 定年後の「本当の田舎暮らし」は慎重に。坂が多く、医療の手薄い過疎は覚悟が必要。
  • 自然が好きなら、程々の「東京の田舎」は選択肢となる。車がなくとも生活可能なエリアを選ぶと、なお吉。

データを見る限り、八王子はやや田舎、青梅は田舎ですね。
青梅在住の筆者は、ちょっと悔しい気もしますが…
考えようによっては、都心のライフスタイルも満喫しつつ、田舎の良さも味わえる街。
「東京の田舎」は、中々良い選択かもしれませんね。

インフォメーション

参考文献

生活関係の記事

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