東京・多摩地方。首都・東京の西部に位置する、人口420万人強のエリアです。
かつては区部とのインフラ格差も大きく「多摩格差」がクローズアップ。
現在は少子高齢化へと移り、「消滅可能性都市」問題も課題です。
目次
古くて新しい「多摩格差」問題
かつては貧しかった多摩地方
筆者の実家は武蔵野市。今は「住みよさランキング」1位(東洋経済)の都市となりましたが…昭和50年代(1970年代前半)は、結構な田舎。たとえば、武蔵境駅・南口は出入口こそあれ、駅前はカヤの生える空き地でした。
武蔵境だから、じゃないの?
いえいえ、あの吉祥寺だって伊勢丹のオープン前(1971年)は、戦後の闇市の名残すらあった街。市がデパートを誘致し、吉祥寺大通りを整備するまでは、結構な田舎でした。
そんな1970年代に、都は「三多摩格差8課題」を提起します。都区部と比べ、多摩地方のインフラ整備が課題。美濃部都政時代の政策です。
- 義務教育施設
- 公共下水道
- 保健所
- 病院及び診療所
- 道路
- 図書館・市民集会施設
- 国民健康保険料
- 保育料
リストアップすると隔世の感がある、とも言えます。
たとえば、多摩地方の公共下水道普及率は2018年で99%。図書館や学校なども、それなりに整備。
全国でも有数の健全財政を誇る武蔵野市をはじめ、区部を凌駕する都市も多くなりました。
東京区部・多摩の財政については東京23区より多摩が良い?自治体の財政力指数と、その使い方を併せてご覧ください。
三多摩は、死語?
かつて、多摩地方は、北多摩郡・南多摩郡・西多摩郡の3郡がありました。
1970年に村山町が武蔵村山市となり、北多摩郡は消滅。
続いて、1971年に稲城町・多摩町が市制となり、南多摩郡も消滅。
今は、瑞穂町・日の出町・奥多摩町・檜原村のある西多摩郡のみとなりました。
その名残で、長らく多摩地方は、北多摩、南多摩、西多摩のに区分されていました。
3つの多摩で「三多摩」です。
もっとも、平成生まれの方は、「三多摩」はピンと来ないでしょう。
「三多摩」も、吉祥寺ですら田舎だった頃は合理的な区分でしょうが… 1980〜90年代になると、同じエリアでもかなり、性格が変わります。
特に北多摩は、武蔵野・三鷹・調布など、中央線・京王線沿線はベッドタウンとして発展。北部や西部は農業も盛んなエリア。一括りにするのも、少し無理が生じてきました。
東京は、どこからが「田舎」なのか?解釈は色々ありますが…
青梅・立川・八王子は田舎か? 数値で見る「東京の田舎」とは?では、各種データを用い考察しています。併せてご覧ください。
三多摩は、四多摩になりかけた?
時代は移りゆき21世紀へ。
東京都は2001年に、多摩の将来像2001を制定します。
重点的な課題として、10項目を設定。
- 圏央道の整備による物流や地域の活性化
- 多摩ニュータウンの持続可能な都市づくり
- 南北交通の整備促進
- 産学公の連携による産業の振興
- ITの環境整備と活用
- 多様な機能を活かした農業の推進
- 水とみどりのシンボル
- みどりのネットワークの形成
- 森林の保全と活用
- 観光地としての多摩の魅力の増進
1975年よりもインフラが整備され、かなりの部分で解消。都市基盤整備を中心に、個々の施策に踏み込んだ、21世紀初頭の「多摩格差」解消です。
石原慎太郎さんが都知事に就任して1年後、新しいコンセプトを打ち出したかったのかも。環境問題や情報化社会への対応、農業への回帰も盛り込まれました。
もっとも国策といえる圏央道は、すでに部分開業。南北交通の多摩モノレールも前年には、上北台〜多摩センター間は開通、従来の政策も踏襲しています。
2番の「多摩ニュータウンの持続可能な都市づくり」は、現在の高齢化社会を暗示?
制定当時は、多摩ニュータウン入居から30年ほどですが…バブル崩壊と低金利で、庶民でも東京区部のマンションが買えた時代。郊外型大規模開発の焦りが垣間見られます。
ここで注目すべきは、多摩を4つのエリアに設定したこと。面白いのは、市町村ではなく、地域特性で分けています。
例えば、青梅市は、山間部と市街地は、別のエリア。同じ市ですが、2つにまたがっています。地域特性を活かすならば、中々現実的でしょう。
もっとも、この区分はほとんど、認知されなかったようです。
「五多摩」時代は、少子高齢化が最大の課題?
東日本大震災から2年後の2013年。東京都では、多摩の魅力発信プロジェクト・たま発!を開始します。開始直後のプレスリリースを読むと…
- 住みたくなる
- 育てたくなる
- 働きたくなる
- 行ってみたくなる
1975年のインフラ整備、2001年の高度都市基盤整備とは、ずいぶん趣きが変わります。
「小池百合子さん」的フレーズですが、実は猪瀬直樹知事時代の政策。フワッとしたフレーズですが、煎じ詰めれば少子高齢化対策でしょう。
背景には、高齢比率の増大と人口減があります。
例えば、奥多摩町。このプロジェクトが開始された時点での高齢化率(65歳以上の高齢者が占める割合)は、4割を超えています。2020年には5割を超えました。
人口減も深刻です。2023年6月時点で4,680人、1960年の3分の1まで減りました。
このプロジェクトでは、「三多摩」のうち、北多摩を3つに分割。多摩地方を5エリアに分けています。
移住や子育て支援は、自治体ごとに制度が異なります。2001年のような、市町村をまたぐエリア分けは難しいのでしょうか。
多摩を5エリアに分けるのは、各自治体の支援政策の違いが大きいと思われます。
都市部に近いエリアは子育て支援、西多摩などは住宅支援など、移住政策に力を入れる傾向。世代別の人口分布で、採るべき施策も違うのでしょう。
消滅可能性都市時代の多摩
プロジェクトの1年後、「消滅可能性都市」が話題となります。
消滅可能性都市とは、20~39歳の女性が、2010年から2040年で5割以上減る自治体。
「消滅」という強烈なフレーズが目に行きますが、端的にいえば少子高齢化問題です。
子供を産む女性が減る→人口が激減→自治体が消滅
というわけです。
上のグラフは島しょを除く東京都の「若年女性人口」の減少率です。
奥多摩町、日の出町、檜原村、豊島区が消滅可能性都市となりました。
山間部の多い自治体を中心に、かなり深刻な数字です。
もっとも、50%を切ったところで安心とも言えません。40%台の青梅や杉並、今は財政の豊かな武蔵野市なども危険水域でしょうか。グラフを見ると、気が滅入ります…
移住・子育て支援が「多摩格差」の最重要課題となるのも頷けます。もっとも多摩のみならず、東京、ひいては日本全体の問題ですが…
1975年・2001年・2010年と、「多摩格差」の課題を追ってみました。
いくらインフラを整備しようとも、それを利用する市民が居なくなれば、意味がない。
高度成長期からバブル、斜陽へと向かう日本を見る思いです。
区部と多摩地方、住民視点での「多摩格差」は?
東京が好きな東京人
住民視点での「多摩格差」を見ましょう。
東京都では毎年、インターネット都政モニターアンケートを実施しています。
「東京は魅力的な都市だと思うか」では、おおむね9割以上の人が「魅力的」と答えています。
区部・市町村部(多摩と島しょ部)いずれも、高得点です。
2017年からの推移をみると、区部はほぼ変わらず。市町村部は5%ほど減少していますが、それでも2022年で9割超えです。
「今後、東京都に住み続けたいか」という質問。
いずれの年度も「住み続けたい」が60%台、「どちらかというと住み続けたい」が20%台。
合計すると、9割近くが定住を希望しています。
年度によって多少違いはあるものの、区部、市町村部とも拮抗。皆さん、東京都が大好きなんですね。また、2020年以降のコロナでの影響も、ほとんどありませんでした。
都政への満足度は?
「あなたは、最近の都政に満足していますか」という質問も意外に高得点。
ほぼ6割程度の方が、それなりに満足しています。市町村部のほうが、やや満足度が高いですが、微々たる差でしょうか。
都民全体での満足度の推移です。
2008年から4人の知事が歴任しましたが、2008年を除き概ね半分以上の方が満足。調査回数が少ないことを加味しても、10〜90%台まで乱高下する、内閣支持率より安定しているかと。
「都政満足度」は知事個人の支持率とも違いますが、中々面白い結果ですね。
インフォメーション
参考文献
- 東京都「東京と都政に対する関心」アンケート 2017〜2022年度分
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/iken-sodan/monitor/monitor.html - 東京都「多摩の将来像2001」
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/05gyousei/06sinkoutamashourai.html - 東京都「多摩の魅力発信プロジェクト・たま発!」
https://tama120.metro.tokyo.lg.jp/ - 日本創成会議「全国市区町村別「20~39歳女性」の将来推計人口」
http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_2_1.pdf - 日本医師会 地域医療情報システム
https://jmap.jp - 奥多摩町 第2期奥多摩町まち・ひと・しごと創生総合戦略
https://www.town.okutama.tokyo.jp/material/files/group/2/2nd_souseisougousenryaku.pdf