人身事故も発生し、関心の高まる東京のクマ問題。
住民の安全はもちろん、観光への影響も懸念されます。
東京都の出没データを分析し、独自アンケートも実施。
データと人々の意識から、その実像に迫ります。
数字で読み解く、東京のクマ問題
市町村で異なる、クマの出没状況
近年、出没件数が増加する、東京のツキノワグマ。
都では2024年より、東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ(TOKYOくまっぷ)を運用開始しました。

地図上で出没位置を表示。一覧表で各地点の詳細情報も閲覧できます。
このデータを分析し、傾向を探ります。
まずは、自治体ごとの出没件数を見てみましょう。
出没情報の内、「確度・高」を抽出。
特に目撃情報は見間違いも多いとされ、確度の低い情報は省くのが適当でしょう。

出典:東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ
東京都全体では、2023年から2025年にかけ、増えていますが…
あきる野や奥多摩では2025年に減少、地域でかなり差があります。

出没件数に占める、「確度・高」の割合です。
年により7%程度違いますが、極端に変わりません。
出没(目撃)情報全体が増えても、大きく変化していない…
つまり
「報道の影響で、確度の低い通報が急増した」
とは言えないようです。

2025年度の調査では、都内のツキノワグマの個体数は120~378頭(平均値235頭)。
2020年は128~181頭(平均161頭)から増えています。
もっとも、調査・評価方法が異なるため、単純な比較はできませんが…
専門家や市町村へのヒアリングの結果なども加味すると、都内のツキノワグマの個体数は増加傾向にあると考えられます。
出典:東京都環境局WEBサイト
「確度の高い出没件数」が増えたのは、個体数が増えたと考えるのが妥当です。

「確度・高」の割合は自治体によって、驚くほど違います。
出没情報は「痕跡」「撮影」「捕獲」「目撃」で分類されますが…
捕獲は当然、確度100%、撮影も確度が高い傾向。
痕跡はやや低く、目撃が一番低くなります。
定点カメラなどを設置したエリアは確度が高くなりますが、目撃情報が大半の自治体は低くなる傾向です。

ただ、それだけでは説明できないほどの違いかなと。
傾向としては山地の多い自治体は高いのでしょうが、人口密度などとも相関関係はありません。
このデータからは、要因を特定できませんが、興味深い結果ですね。
クマの被害人数が増加傾向だが…
日本全体でどの程度、クマの被害があるのでしょうか?
2008年からの被害人数をグラフ化すると…

2025年は全国で238人(うち死亡者13人)。
多少上下がありますが、やはり増加傾向です。
都道府県別に2008年〜2026年5月末の累計を見ると…

驚くほど地域差が大きいです。
林業が盛んなど、自治体によって事情は違い、単純に比較できませんが…
岩手県が351人、秋田県が311人と突出、ついで長野県の193人です。
環境省の統計では、東京での人的被害は17年強で10人、うち死亡者はいません。
ここで重要なのは「どのエリアが危険」ということではありません。
リスクが10倍以上違えば当然、対策の方法論も変わる。
全国一律の対応では限界があり、自治体ごとのスキームが必要なのでしょう。

もちろん、東京も「安全」ともいえないのが、実状です。
特に、人里に出没した際に適切な施策は必要でしょう。
実際、青梅では小学校の近くにクマが出没。小学校の背後に連なる森もあります。
市では、市内小中学校全児童・生徒に熊鈴を配布するなどの対応に追われました。
人里への出没への過小評価は、禁物です。

もっとも…
都内でクマの被害に遭う頻度は、どのくらいでしょうか?
他の災害と比較すると…
| 犠牲者/年 | 備考 | |
|---|---|---|
| 都内 クマ被害 | 0.6人 | 17年間の年平均 2008-2025年 |
| 都内 交通事故 | 33,535人 | 負傷者・死傷者の合計 2025年 |
| 都内 火災 | 849人 | 東京消防庁管内 2015-2024年平均 |
| 落雷 | 1人程度 | 国内発生確率を元に 都内人口で換算 |
| 航空機事故 | 2.8人 | 2015-2020年の国内事故を 都内人口で換算 |
単純な頻度では、クマでの被害はかなりレアケースです。
個人的には、雷と同等程度のリスク、と考えるのが適当かと。
性質は違いますが、「低頻度だが、備えも重要」という点では共通しています。
アンケートで探る、東京のクマ問題

近年の「クマ騒動」で、来訪者などの意識はどのように変化したのでしょうか?
2026年6月に、X(旧Twitter)にて
「西多摩エリアへの観光について」
のアンケートを実施しました。
「おめ通」の読者が対象としたアンケートです。無作為抽出による世論調査ではありません。
「西多摩エリアに興味ある層」の傾向としてご覧ください。

まずは、西多摩への観光について。
「山を含め行きたい」が44%で最多。
過激な報道もある中、かなりモチベーションは高いようです。
反面、「とりあえず様子見」「行きたくない」の合計は36%。
これをどう評価するべきか…

例えば、奥多摩・檜原のように、観光産業の比重が高いエリアは、かなり厳しい。
極論ですが…
仮に来客者数が36%減り、売上が3割減ったとするならば…
特に利益率の低い飲食業界などは、大打撃。
内部留保の少ない事業者なら、廃業となる可能性すらあります。
ただ、「様子見」が3割程度なのがカギ。選挙でいえば浮動票みたいなモノです。
キチンとした観光施策やキャンペーンを打ち、訪問者を増やす「伸びしろ」はあるかと。
あの人気エリアの高尾山周辺だって、閑散期では「蕎麦屋さんスタンプラリー」などで盛り上げています。
クマ問題に限らず、山岳エリアの観光地でも「里だけ楽しめる」施策を打てるかどうかが、重要なのかと。

マスコミ報道についての設問では「危険を煽り過ぎ」が最多です。
実際、過激な報道も多く…
まあ、マスコミもビジネス、キャッチーなタイトルで扇動するのは定石です。
もっともタイトルとは裏腹に内容は凡庸、肩透かしを食らいます。
アンケートでは「適切な報道」「もっと注意喚起をすべき」の合計は、約4割。
クマ被害の実態や、安全への啓蒙も求められているのかと。

「ご自身が西多摩へ訪れた際、クマと遭遇すると思いますか?」
という設問。
「山なら遭遇するかも」がダントツです。
こちらも中々、興味深いです。先の設問と併せると
「多少のリスクは承知で、山へ行きたい」
人が相当数いると解釈できます。
「ゼロリスクではないが、適切に備えて楽しむ」というスタンスなのでしょうね。
インフォメーション
参考文献
- 環境省
クマによる人身被害件数(速報値) (令和8年6月12日) - 東京都環境局
東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ(TOKYOくまっぷ)


















交通事故や火災などと、クマ被害を比較すると…
「クマ被害は極端に確率が低い」と感じるかもしれません。
しかし、数字を比べる際には注意も必要です。
例えば交通事故は、誰もが日常的に直面するリスク。
対してクマとの遭遇は登山や林業など、山林を利用する人に偏ります。
つまり、同じ「1人あたりの確率」でも…
対象となる人や活動時間が異なるため、単純に危険性を比較することはできません。
大切なのは、数字の大小だけで判断するのではなく…
「どんな場面でリスクが高まるのか」を知り、適切な対策をとることです。