数字で見る、JR青梅線の真実、車社会と折り合いを付けるには?

西多摩の交通インフラの要、JR青梅線。
発展と過疎化が入り交じる、都会と田舎に立ち位置するエリアです。
各種データを紐解き、その実態に迫ります。

データから見る、JR青梅線沿線の、今と未来

青梅線全駅の経済力に匹敵する、立川駅の実力

立川の夕暮れ

東京の西、立川から中央線と分岐するJR青梅線。
東京のベッドタウンとして、また、御岳山・奥多摩など、観光地のあるエリアとしても知られています。

JR青梅線は、人口が微増するベッドタウンと、過疎化の進む町が混在しています。大雑把に言えば、立川から遠い西へ行けば行くほど、過疎化が進んでいます。

青梅線・駅別乗降客人数・国土数値情報
出典:国土数値情報をもとに作成

では、各駅の乗降客数を見てみましょう。2020年のデータで、青梅〜奥多摩駅間は、少なすぎて非公開となっています。
ご覧の通り、立川駅がダントツ
どのくらいダントツかと言うと…

青梅線・駅別乗降客人数・国土数値情報
出典:国土数値情報をもとに算出


西立川〜奥多摩の合計より、立川駅ひと駅の方が多いのです!
束になってもかなわない、横綱相撲…

「乗換駅だから、多いんじゃない?」
もちろん、それもありますが…

青梅線・駅別・飲食店数
食べログより集計


上のグラフは、2022年1月現在、食べログに掲載された、駅から500m以内の飲食店数です。
かなりマイナーな飲食店も掲載されており、参考となるでしょう。
500mとは、歩いて10分弱と、駅から気軽に行ける範囲。駅圏内の活気(経済力)が計れます。
食べログの掲載店は、廃業してもそのまま載り、誤差もありますが…

青梅線・駅別・飲食店数
食べログより集計

青梅線各駅の合計を足して、ようやく立川とほぼ同じ。誤差なんてふっとぶほど、立川がダントツです。
つまり、かなりの人が駅で降りて、食べて飲んで、買い物するわけです。

大して広くないエリアにお店がひしめいて、もう、圧倒的な商圏です。
立川が凄すぎるのか、他の駅がダメダメなのか、メジャーリーグとリトルリーグくらい違う…

立川の発展ぶりを、他の中央線・快速駅と比べてみましょう。

中央線・駅別乗降客人数・国土数値情報
出典:国土数値情報をもとに作成

上のグラフは中央線快速・新宿以西の、乗降客数の上位駅(2020年)。(JR線のみのデータで、私鉄は含まれません)
立川が、一番乗降客数が多いという結果に。
驚くことに、吉祥寺よりも5万人ほども多く、何かとライバル視される八王子を、ダブルスコアで粉砕、勝負になりません。
個人的には、国分寺が結構、健闘しているな、と思います。三鷹・荻窪より多いのですね。
ちなみに、札幌駅が20万人弱、政令指定都市の中心駅より、立川のほうがパワーがあったりします。

立川がこれほど栄えた理由は、多摩モノレールの開通や、立川飛行場跡の広大な土地を整備した賜物なのでしょう。
吉祥寺や中野、杉並など、独特のカルチャーにこだわらなければ…
立川とその周辺は、利便性に優れ、居住費も比較的安い、住みやすいエリアと言えますね。

西へ行くほど、車社会な青梅線沿線

先の飲食店数で、ギモンが出てきます。
立川ばかりに集中し、他の町には、飲食店がほとんどないのかと…

西多摩エリア・市町村別・飲食店数

上のグラフは、各都市の人口1万人あたりの、飲食店の数。東京都と食べログのデータを元に算出しました。
薄いブルーが人口、濃いブルーは昼間人口です。
昼間人口とは、通勤通学で通う人を加味したモノ。一概には言えませんが、こちらのほうが実態と合っているでしょう。

駅圏内に飲食店の多い立川ですが、市全体では、グッと差が縮みます。昼間人口で比べると、福生などは、ほぼ同じです。
つまり、立川以外の市町村では、駅から離れたロードサイドに飲食店が多いのです。
肌感覚では分かっていましたが、データで裏付けられました。

余談ですが、奥多摩町・檜原村に人口あたりの飲食店が多いのは、人口が少なく、観光客向けの店が多いから。失礼ながら、平日はヒマでしょうね。
瑞穂・あきる野・青梅あたりは、人口に比べ飲食店が少なく、新たに開業するなら狙い目かも?

西多摩エリア・市町村別・世帯あたりの自動車保有数

市別の、世帯当たりの自動車保有台数も、見てみましょう。
世帯数は国土地理協会(2021年度)、自動車保有台数は東京都のデータ(2017年度)。
トラック・バス等を除く、普通乗用車と軽自動車の合計です。
やはり、西へ行くほど保有率が高くなります。福生から西では1家に1台以上、西多摩郡(3町1村)では、半分くらいの家は1家に2台ある感じです。
駅前が廃れるわけですね…

青梅線は、どの区間が赤字か?

データから見える青梅線の現状は…

  • 中央線の中でも、始発駅の立川の存在は大きい
  • 青梅線は、立川1強
  • 立川・昭島以外は、1家に1台以上の車社会
  • 西へ行くほど、車に依存する

という感じでしょうか。   
では、青梅線は赤字なのか?

線名営業係数(2016年度)
青梅線全線93.1
青梅線
立川〜青梅間
78.5
青梅線
青梅〜奥多摩間
536.7
中央線
(高尾まで)
59.3
五日市線141.7
出典︰東洋経済Webサイト

本家JRでは、路線別の収支を発表しておらず、東洋経済掲載の試算を引用します。
2016年度の数値で、コロナ渦で、相当悪くなっていると想像しますが、通常時は上図の通りです。

「営業係数」は100円稼ぐのに、いくら費用がかかるのかを表します。つまり、100以下ならば黒字です。

立川〜青梅間は、かなり良い数字。中央線ほどではありませんが、2割の利益を計上しています。
青梅線全体でも93.1と、一応、黒字ですが…
いかんせん、青梅〜奥多摩間は536.7と大赤字です。100円稼ぐのに、500円以上費用がかかる!
奥多摩町の人口はどんどん減っていますし、十年単位で考えると、相当な合理化をするでしょうね。

車社会と鉄道は、共存可能?

日の出町・イオンモール

車社会となる弊害は…

  • 列車の本数が減る。最悪、廃線
  • 駅周辺の活気がなくなる
  • 観光スポットとしての価値が下がる
  • 車がないと、生活しづらい
  • 移住先の魅力が下がる
  • 高齢者の免許返納問題

といったところでしょうか?
今現在、車を持って住んでいる人は、免許返納等、歳を取るまでは、とりあえず困りませんが…
でも、ジワジワと、町の地力が下がります。

コロナ渦で、多少なりとも、地方移住が注目されていますが…
地方都市は、経済を支える人口減少が最大の問題、移住政策を促進する必要があります。
(もっとも、人口減少は、日本全体の課題でもありますが)
でも、「車がないと生活出来ない」となると、やはり二の足を踏む人も多い。
特に移住してもらいたい、若い世代は車のある生活とは限らないのです。

年齢別・男女別・運転免許保有率
出典:内閣府Webサイト

上のグラフは、内閣府が発表した、運転免許所有率。40代は男女とも9割が所有していますが、20代は8割台。東京都に限れば、もっと少ないでしょう。

地方の貴重な収入源の観光も、公共交通機関がないと、やはり弱い。
ならば、どうにかして、鉄道を存続させる必要があります。

かといって、車生活になれた人を、鉄道に呼び戻すのは相当難しい。
おそらく、最大公約数的には…

鉄道駅近くに、充分な駐車場スペースのある、魅力的な施設を造る

くらいしかないのでは?
要は、鉄道でも車でも利用しやすい、なおかつ、ロードサイドより魅力ある施設を造る感じです。

立川のイケアやららぽーとは、それに近いスタイルですよね。
もっとも地方ならば、駅直結くらいにしないと魅力度が落ちるし、コンセプトはアレンジする必要はありますが…

もちろん、予算やスペースの問題もあるでしょうが。
そのような施設をハブとして、観光スポットをリンクさせるような、コミュニティバスやデマンドバスなども、必要なのかも知れませんね。

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